相次ぐNPO経営者の退任に物申す

人生の流れは早いもので、今日で僕もいよいよ35歳になった。四捨五入すれば40歳なわけで、立派なオッサンに育ってしまったという明白かつ憂鬱な事実を受け入れる他ないだろう。なお、創業したNPO法人クロスフィールズも5月で6歳の誕生日を迎え、7年目のシーズンに突入している。いつの間にか僕の人生で最も長い期間身を置いている組織になったわけで、これまた何とも感慨深い。

さて、そんな35歳の誕生日に何となく書いてみたかったのは、NPO経営者のキャリアについてだ。

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今月4日、同時期に起業をした盟友である松田悠介(34歳)の壮行会が行われた。彼は認定NPO法人Teach For Japanの創業代表だった人物で、今から7年前にTeach For Americaのモデルを日本に持ち込むという無謀な挑戦に取り組み、そして大きな成果を残してきた。そんな彼が今月で代表理事のポジションを後輩に譲り、Stanford経営大学院のフルタイムExecutive MBAコースに進学して次なるチャレンジに挑むのだという。

実は彼だけでなく、実は2017年に入って、いわゆる「社会起業家」として活躍していたNPO経営者たちのキャリアチェンジが相次いでいる。

NPO法人NEWVERYの山本繁さん(39歳)は、学生時代に創業して15年間引っ張ってきた団体の理事長を退任し、大学の実務家教員としてのキャリアへと進んだ。また、NPO法人G-netの秋元祥治さん(37歳)も、同じく創業以来16年にわたって勤めてきた代表理事を退任し、今後は中小企業の支援に本腰を入れている。また、岡本拓也さん(40歳)も、認定NPO法人カタリバの常務理事とNPO法人SVP東京の代表理事のポジションを相次いで降りて次なるキャリアを模索している。

いずれの人もとても近しい距離で仕事をしていた先輩・友人であり、同時にソーシャルセクター全体を牽引してきた人物だったので、自分自身にとっても、また業界全体にとっても激震が走る出来事だった。

退任理由はそれぞれ違うし、何かを一般化することは難しいかもしれないが、今年に入って突然これだけ相次いでNPO経営者のキャリアチェンジが起きているということには、何かしらのメッセージが隠されているような気がしてならない。まだあまり整理できていないが、できるだけ客観的に、でも少し敢えて感情的にもなりながら、自分なりにこの現象に物申してみたいと思う。

まずはポジティブな側面について。

NPO経営者への新たなキャリアパスの提示
大きいのは、新たなキャリアパスを示したことだと思う。あまり知られていないが、NPOの経営者はキャリア上のゴールを描きにくく、孤独になりがちだ。株式会社の経営者であれば、バイアウトやIPOという分かりやすい出口があるし、株の持ち分もあるので転身をするきっかけを掴みやすい。それに対してNPOの経営者は明確な出口が描きにくい。もちろん生涯をかけて団体にコミットしている人も多いが、人生100年の時代に、それを全ての人に強いるのは酷だろう。その意味で、こうしたキャリアが描けると世の中に提示できたことは健全なことだったと思う。

新しい形態でのNPOのインパクト拡大
NPOの経営者が別の分野で新たな挑戦を始めることは、また違う形で社会的なインパクトを増大させることに繋がると言える。たとえばNEWVERYの山本さんはNPOで培った大学経営のノウハウを、今度は大学の内側に入り込んで活用するわけで、そのことが持つ社会的な意義は間違いなく大きいはずだ。

ソーシャルセクターの新陳代謝
最後に、ソーシャルセクターという業界全体に新陳代謝の効果をもたらす点に注目したい。変化が早いいまの時代において、いかにして次の世代へのバトンタッチを進めるかということは、どの業界にとっても、生き残りをかけた勝負になっている。この点、たとえば1970年代頃に多くの団体が誕生した国際協力NGOの業界を見てみると、創業代表の世代がかなり長い時間にわたってトップの職位にいたことで、業界としての勢いや革新性を維持することができなかったように感じる。その意味で、これだけ早い段階から業界内の新陳代謝が起き始めているということは、業界としての活力を維持する上で良いサインだと捉えられる。

一方で、無論やはり手放しには喜べないネガティブな側面もあるように思う。

バーンアウトすれすれの過酷さ
ソーシャルセクターの経営者は、その多くが一種のバーンアウトに陥りやすい環境で働いているように思う。明確なゴールや出口がわからない中で最終責任者としてシリアスなテーマに立ち向かい続けるというのは、これはなかなか過酷な旅路だった。無論、今回の一連の退任がバーンアウトによるものだったと言いたいわけではないが、この業界がもっと盛り上がっていくためには、経営者に向けた精神面でのセーフティネットの整備なども更に進めていくべきだと感じる。

変革を必要とする業界としての状況
少し話は逸れるかもしれないが、ソーシャルセクターの魅力が相対的に低下していることを感じることも最近多い。社会起業家ムーブメントが日本で起きたのは2005年頃だったといわれるが、それから既に10年以上が経過している。「刺激に満ち溢れた最先端の業界」としての価値は、いまはテクノロジーの世界やIPOが活況なベンチャーの世界に比べると乏しい印象が否めない。その意味では、ソーシャルセクターにも何かしらの変化が求められているわけで、今回の一連の退任は、ある意味ではそうした状況を反映した出来事だったようにも感じる。

同志としての単純な寂しさ
そして最後に、やはり一緒に業界を引っ張ってきた戦友たちが第一線から退くというのは、精神的にとても寂しい。まだまだ「社会を変えた」と胸を張って言い合える状況にはなっていない中では、もっともっと一緒にこのセクター引っ張っていきたかったというのが個人的な想いではある。

以上、非常に勝手気ままな見方ではあるが、相次ぐNPO経営者の退任に対して自分が考えたことを吐き出してみた。

自分自身としては、まだまだ自団体クロスフィールズの活動と日本のソーシャルセクターの発展とにコミットし続ける強い気持ちがある。そして、そういう風に日本のソーシャルセクターに留まって頑張る人材は、本当に沢山いる。大事なのは、今回キャリアチャンジをした人たちに刺激を受けつつ、そうした人材がそれぞれの持ち場で圧倒的な結果を出していくことだと思う。

僕個人としては、素晴らしい西海岸の環境でノウノウと勉強しているような人間には、成長スピードや社会に出している価値では決して負けてはならないと、心に決めた。35歳の1年間も、そんな気概で、一日一日を過ごしていこうと思う。

というわけで、松田悠介はせいぜい頑張ってきやがれ。
(そんな彼がStanfordでの日々を綴っているブログはこちらから)

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
   『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)
    ☆ Amazonランキング キャリアデザイン部門ベストセラー1位を獲得
    ☆ ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2016 年間17位
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