NPOが陥るエリート主義という機能不全

英国でのBrexit、そして米国でのトランプ大統領の誕生など、今年はちょっと常識では考えられないようなことが世界各地で立て続けに起きている。

なぜこうしたことが起きているのかを、経営共創基盤の冨山和彦さんが、『「Gの時代」が終わり、「Lの時代」がやってきた』というNewsPicksの記事の中で、非常に明瞭に解説している。

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詳しくはぜひ元記事を見てもらいたいが(閲覧にはNewsPicksへの登録が必要)、「グローバルエコノミーの中で急上昇していく人たち(Gの住民)と、ローカル経済の中に閉じ込められている人たち(Lの住民)の間で大きな格差が広がっていて、Lの世界の人々が反乱を起こしている」というのが冨山さんの解説の趣旨だ。

そして、僕がこの記事を読んでいて強く感じたのは、「非営利セクターが抱える矛盾」についてだ。

Lの世界にいる社会的弱者の声をきちんと拾い、その課題を世の中に提示して社会を良くしていくという活動は、まさにNPOの使命の一丁目一番地だと言える。ある意味で、Gの世界を支える資本主義をベースにした企業活動に対して抵抗し、別の価値観を提示したり、あるいは、弱者も包摂する形での社会のあり方を模索するのが、NPOの存在意義であった。

つまり、行き過ぎたGの世界に対して、Lの世界の視点からNOを投げかけて世界にバランスをもたらすという機能が、NPOには本来的には求められている。しかし、世界的な視点で見ても、日本国内のNPOを見ても、どうもNPOはその観点では機能不全に陥りつつあるように僕には感じられるのだ。

3点ほど、主に日本国内でのNPOのセクターでの気になる動きを挙げたい。


①企業活動というGの世界への迎合

第一に、僕の経営するクロスフィールズなどを筆頭に、企業の活動に対してNOと言わず、むしろ企業とコラボレーションするという姿勢を持つNPOが台頭したことが挙げられる。

これによって企業とNPOとが一緒になって価値を生み出せるようになったという大きな進化があったという反面で、企業の活動に正面からNOと言う主体者が減ってしまったとも捉えられる。悪い面だけ見れば、Gの世界の活動である企業活動のなかに、NPOの活動が取り込まれてしまったとも言えるかもしれない。

②Lの世界の代弁者であるという立ち位置の喪失

次に、2005年頃からの社会起業家ブームに乗って、事業収入を主な収入源とする事業型NPOが増えてきた動きも見逃せない。

寄付金や会費での収入によって運営を行う寄付型NPOは、株主としての寄付者や会員がいるため、そうした支援者や受益者(この中にはLの世界の人たちも多く含まれる)の声を無視した行動を取りづらいという特性がある。一方で事業収入が予算の多くを占める事業型NPOには、寄付者や会員の基盤が弱い団体が多いため、Lの世界の代弁者としてのNPOという色は薄まってきていると言える。(そして、近年メディアなどでよく注目を集めているNPOには事業型の団体がとても多い。)

また、かなりマニアックな話ではあるが、寄付型NPOのなかにも、議決権を付与しないサポーター会員という形で会員を募集している団体が急速に増えている。この制度を活用すると、不特定多数からなる多数の会員の合意を取る手間が大幅に軽減される。これによってNPOの経営のスピードや柔軟性は高まるったが、その一方で、NPOのガバナンスに一般市民が参画するという体制は、日本でNPO法が施行された1998年当時と比べると大幅に弱まったように思う。

冒頭にも書いたように、NPOというのは、政府や企業に対して市民社会を代表して声を届けるという役割が期待される組織体だ。しかし、自戒の念も込めて厳しい見方をすれば、いまの状況では、一般大衆から票を集める必要のある政治家のほうがよっぽど熱心に市民の声に耳を傾けていると言えるかもしれない。

③高学歴エリートの職場であるという体質

最後に、NPOのセクターで働く人にも注目したい。実はNPOで働いている人には高学歴者が驚くほどに多い。僕は職業柄、多くのNPOの経営者やそこで働く人にもお会いするが、特にメディアなどでよく見かけるような注目度の高い団体であればあるほど、その傾向は強いように思う。国際協力系の団体などでは、ほとんどの職員が欧米大学院での修士号を取得しているといった具合だ。

もちろん、こうした優秀な人材がNPOの世界で活躍するようになっているのは、歓迎すべき素晴らしいことだ。だが、そのことは同時に、NPOで働く多くの人がGの世界の住人たちになっていることを意味している。当事者性を持ったLの世界の住人が自ら旗を振って活動しているようなNPOは、ここのところその数が減ってしまっているように感じる。


以上が、客観的なファクトには基づかない僕の印象論メインの考察だ。おそらく、僕とは違う意見を持つ人も多いかもしれない。

だが、僕の目には、NPOの活動はLの世界とは切り離され、Gの世界のなかで完結するものになってきてしまっているように映っている。そして、こうしたNPOの機能不全が、現在世界で起きている混乱の一因になってしまっていると、僕は自戒の念を込めて感じている。

今後も、格差に苦しむLの世界での反乱が更に激しさを増していく可能性は高い。そんななかで重要となるのは、NPOの活動がLの世界の人々の声を聞き、その声をGの世界へと届けていくことだ。そのことが両者の格差の拡大を止めることに繋がるはずだからだ。

その意味で、NPOの活動にかかわる全ての人たちは、社会課題を抱える当事者の視点や、Lの世界の人々が抱える不安や不満の声に対して、もっともっと自覚的にならなければならないと僕は心から思う。

ある意味ではGの世界に組み込まれているNPOの代表格であるクロスフィールズを経営する自分がこのようなことを言っても、「お前が何を言ってるんだ」と思う人も多いかもしれない。でも、そんな自分がこうしたことを発信することも大事だと思い、思い切り自戒の念を込めて書いてみた。

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
   『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)
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