もう世界は辺境から変わっている

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先週は日本企業のエグゼクティブの皆さんと一緒にインドを訪れ、ムンバイとバンガロールを1週間かけて回ってきた。

社会的企業(社会課題を解決するというミッションを持った企業)を中心に、7団体とのディスカッションを行うとともに、スラム・農村・ゴミ収集場などといった現場を訪問してきた。プログラムとしての成果はまた別途報告するとして、今回のインド滞在で僕がつかんだ感覚を記憶が新しいうちに書き留めておきたい。

7年前の本が描いた景色が、現実のものに

辺境から世界を変える

個人的にも親交のある加藤徹生さんが2011年に書かれた『辺境から世界を変える』(ダイヤモンド社)という名著がある。発展途上国の辺境地域から、社会課題に当事者性を持つ起業家たちがこれから世界を変えていくであろうというメッセージが、事例とともに力強く紹介されている。

7年前にこの本を読んだ時には、その斬新な世の中の切り取り方に興奮を覚えながらも、「たしかにそうなっていく可能性もあるかもな」という程度の感覚だったことを覚えている。

あれから7年。今回一気にインドで7団体と対話をするという貴重な経験をしてみて、あの本が示唆していた未来はすでにやってきていて、「もう世界は辺境から変わっている」ということを実感したというのが、今回の訪問での一番の感想だ。

遠隔診療がインド農村部の医療サービスを革新

今回訪問したすべての団体を紹介することはできないが、たとえばNeurosynaptic社。医療へのアクセスが難しい地域に住む人たちに対し、テクノロジーを駆使した遠隔診療で適正な医療を提供することに2002年から取り組んでいる社会的企業だ。

これまでに2,200人のヘルスワーカー(医師ではない)を組織し、辺境地域に住む5,000万人もの人たちに対して遠隔での医療サービスを提供してきている。ヘルスワーカーが携帯する専門キットには35種類の診断ツールが入っており、24種類もの診断行為が可能だ。

これによって、村落部に住む人たちはわざわざ遠い病院に行かなくても質の高い医療が受けられる。それだけでなく、病院の側にとっても高い投資をして分院を出さなくても幅広い人々に対して医療サービスを提供できる。また、診療データはすべてクラウド上に蓄積されて分析することができるので、病院としてそのデータを活用して更に医療の質を高めることが可能だ。

ちなみに今回はデモも体験させてもらったが、患者の心音や心拍数をリアルタイムで確認することができるなど、まるでSFの世界にいるかのような気分になるほどだった。

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↑CEOのSameer氏が実演した肺活量検査の様子。遠隔でリアルタイムにスマホにグラフが表示される


やはり驚くべきなのは、この最先端のテクノロジーを活用したサービスが、インド人の起業家の手により、インド農村部の人たちに幅広く届けられているという事実だろう。今回一緒に訪問した日本企業のエグゼクティブたちも、彼らの取り組む事業のあまりの先進性に、何度も感嘆の声が漏れてくるほどだった。

僕自身はあまりこの分野に専門性があるわけではないが、これから更に高齢化が進んで医療アクセスの困難さが社会課題となる日本でも、Neurosynaptic社が提供するような技術は必要とされてくるはずだ。莫大なニーズがあり、また規制も日本ほどに強くはない発展途上国の「辺境」から生まれたイノベーションが、日本の社会課題を解決するようになる日はきっと遠くないはずだ。

第4次産業革命が発展途上国の現場に味方している

2011年の創業以来、クロスフィールズはアジア各国の社会的企業とさまざまな協働をさせてもらっているが、特にここ数年のインドの社会的企業の発展は目覚ましいものがある。

今回はNeurosynaptic社の他にも、さまざまな起業家がイノベーションを起しつつある現場に足を運んできた。IoTを駆使して乳業分野に革命を起している社会的企業や、ゴミ処理からクリーンエネルギーを生み出そうとしている社会的企業など、どれも驚かされるものばかりだ。

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↑IoTのウェアラブルデバイスが付いた牛は、いつ妊娠して搾乳が可能になるかクラウド上で管理できる

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↑スラム地域や集合住宅のゴミ捨て場で、その場でバイオガスを発生させている


共通していたのは、まだ日本ほどビジネス上の仕組みやインフラがしっかりとしていないところに、部分的に最先端のテクノロジーが組み込まれていることだ。そして、そこから産業構造や社会構造を変えるような大きな変革が生み出されつつある。

完全に私見だが、やはり第4次産業革命なるものが、この急速な変化の土台にあるように思う。

IoTやAIといった第4次産業革命時代のテクノロジーには、大規模な設備投資を必要としないという側面がある。つまり、発展途上国の辺境の起業家たちにも、最先端の技術を活用するチャンスが一気にめぐってきていると考えられないだろうか。

インドのモディ首相はそのことをすごく分かっていて、様々な政策を通じて社会的企業が各地でイノベーションを起こすための手助けをしている。多くの起業家たちが政府の後押しを受けながら、辺境の地で最先端のテクノロジーを活用して社会課題を次々と解決しようとしているのだ。

整いつつある、社会課題をビジネスにするエコシステム

そして、もう1つ。こうした社会課題解決のエコシステムが出来上がりつつあるということも大きい。

今回訪問させてもらったAavishkaarは、社会的企業に特化して投資を行うベンチャーキャピタルだ。既に300億円規模のファンドを集め、20社以上のエグジットに成功しており、利回りも脅威の122%を誇っているという。僕が6年前に訪れたときには全くこんな規模ではなかったが、もはや社会課題を解決するという行為自体が、インドでは産業として成り立ってきているということだろう。

また、ムンバイにあるTata Institute of Social Sciencesでは社会起業家に特化した修士号のコースが開設されるなど、この分野での人材育成も一気に進みつつある。こうした動きに政府による後押しも加わって、社会課題解決型のビジネスが生まれて育っていく仕組みが一気に整備されてきているのだ。

辺境からこそイノベーションが生まれる時代に

イノベーションとは、研究開発の拠点を持つ先進国で生まれるものであり、途上国ではその廉価版のサービスや製品が広がっていくというのが、これまでの世界の流れだった。

でも、これからその流れは徐々に、でも確実に逆転していくように思う。

さまざまなインフラが整っておらず、明確な社会的ニーズがある辺境地域においてこそ、第4次産業革命時代のテクノロジーは威力を発揮する。そして、そんな「辺境」からこそ、イノベーションが生まれていくのだ。

発展途上国や農村部といった今日的な「辺境」が世界の中心となり、先進国や都市部といった地域こそが「辺境」になっていくような未来の世界が、もうそこまで来ている。


発展途上国の社会的企業と日本企業をつなぐ役割を持つクロスフィールズは、これからの時代にいったいどんな価値を発揮できるのか。そのことを、これからゆっくりと考えていきたい。(とはいえゆっくりもしていられない気がするけれど…)

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
   『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)
    ☆ Amazonランキング キャリアデザイン部門ベストセラー1位を獲得
    ☆ ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2016 年間17位
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相次ぐNPO経営者の退任に物申す

人生の流れは早いもので、今日で僕もいよいよ35歳になった。四捨五入すれば40歳なわけで、立派なオッサンに育ってしまったという明白かつ憂鬱な事実を受け入れる他ないだろう。なお、創業したNPO法人クロスフィールズも5月で6歳の誕生日を迎え、7年目のシーズンに突入している。いつの間にか僕の人生で最も長い期間身を置いている組織になったわけで、これまた何とも感慨深い。

さて、そんな35歳の誕生日に何となく書いてみたかったのは、NPO経営者のキャリアについてだ。

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今月4日、同時期に起業をした盟友である松田悠介(34歳)の壮行会が行われた。彼は認定NPO法人Teach For Japanの創業代表だった人物で、今から7年前にTeach For Americaのモデルを日本に持ち込むという無謀な挑戦に取り組み、そして大きな成果を残してきた。そんな彼が今月で代表理事のポジションを後輩に譲り、Stanford経営大学院のフルタイムExecutive MBAコースに進学して次なるチャレンジに挑むのだという。

実は彼だけでなく、実は2017年に入って、いわゆる「社会起業家」として活躍していたNPO経営者たちのキャリアチェンジが相次いでいる。

NPO法人NEWVERYの山本繁さん(39歳)は、学生時代に創業して15年間引っ張ってきた団体の理事長を退任し、大学の実務家教員としてのキャリアへと進んだ。また、NPO法人G-netの秋元祥治さん(37歳)も、同じく創業以来16年にわたって勤めてきた代表理事を退任し、今後は中小企業の支援に本腰を入れている。また、岡本拓也さん(40歳)も、認定NPO法人カタリバの常務理事とNPO法人SVP東京の代表理事のポジションを相次いで降りて次なるキャリアを模索している。

いずれの人もとても近しい距離で仕事をしていた先輩・友人であり、同時にソーシャルセクター全体を牽引してきた人物だったので、自分自身にとっても、また業界全体にとっても激震が走る出来事だった。

退任理由はそれぞれ違うし、何かを一般化することは難しいかもしれないが、今年に入って突然これだけ相次いでNPO経営者のキャリアチェンジが起きているということには、何かしらのメッセージが隠されているような気がしてならない。まだあまり整理できていないが、できるだけ客観的に、でも少し敢えて感情的にもなりながら、自分なりにこの現象に物申してみたいと思う。

まずはポジティブな側面について。

NPO経営者への新たなキャリアパスの提示
大きいのは、新たなキャリアパスを示したことだと思う。あまり知られていないが、NPOの経営者はキャリア上のゴールを描きにくく、孤独になりがちだ。株式会社の経営者であれば、バイアウトやIPOという分かりやすい出口があるし、株の持ち分もあるので転身をするきっかけを掴みやすい。それに対してNPOの経営者は明確な出口が描きにくい。もちろん生涯をかけて団体にコミットしている人も多いが、人生100年の時代に、それを全ての人に強いるのは酷だろう。その意味で、こうしたキャリアが描けると世の中に提示できたことは健全なことだったと思う。

新しい形態でのNPOのインパクト拡大
NPOの経営者が別の分野で新たな挑戦を始めることは、また違う形で社会的なインパクトを増大させることに繋がると言える。たとえばNEWVERYの山本さんはNPOで培った大学経営のノウハウを、今度は大学の内側に入り込んで活用するわけで、そのことが持つ社会的な意義は間違いなく大きいはずだ。

ソーシャルセクターの新陳代謝
最後に、ソーシャルセクターという業界全体に新陳代謝の効果をもたらす点に注目したい。変化が早いいまの時代において、いかにして次の世代へのバトンタッチを進めるかということは、どの業界にとっても、生き残りをかけた勝負になっている。この点、たとえば1970年代頃に多くの団体が誕生した国際協力NGOの業界を見てみると、創業代表の世代がかなり長い時間にわたってトップの職位にいたことで、業界としての勢いや革新性を維持することができなかったように感じる。その意味で、これだけ早い段階から業界内の新陳代謝が起き始めているということは、業界としての活力を維持する上で良いサインだと捉えられる。

一方で、無論やはり手放しには喜べないネガティブな側面もあるように思う。

バーンアウトすれすれの過酷さ
ソーシャルセクターの経営者は、その多くが一種のバーンアウトに陥りやすい環境で働いているように思う。明確なゴールや出口がわからない中で最終責任者としてシリアスなテーマに立ち向かい続けるというのは、これはなかなか過酷な旅路だった。無論、今回の一連の退任がバーンアウトによるものだったと言いたいわけではないが、この業界がもっと盛り上がっていくためには、経営者に向けた精神面でのセーフティネットの整備なども更に進めていくべきだと感じる。

変革を必要とする業界としての状況
少し話は逸れるかもしれないが、ソーシャルセクターの魅力が相対的に低下していることを感じることも最近多い。社会起業家ムーブメントが日本で起きたのは2005年頃だったといわれるが、それから既に10年以上が経過している。「刺激に満ち溢れた最先端の業界」としての価値は、いまはテクノロジーの世界やIPOが活況なベンチャーの世界に比べると乏しい印象が否めない。その意味では、ソーシャルセクターにも何かしらの変化が求められているわけで、今回の一連の退任は、ある意味ではそうした状況を反映した出来事だったようにも感じる。

同志としての単純な寂しさ
そして最後に、やはり一緒に業界を引っ張ってきた戦友たちが第一線から退くというのは、精神的にとても寂しい。まだまだ「社会を変えた」と胸を張って言い合える状況にはなっていない中では、もっともっと一緒にこのセクター引っ張っていきたかったというのが個人的な想いではある。

以上、非常に勝手気ままな見方ではあるが、相次ぐNPO経営者の退任に対して自分が考えたことを吐き出してみた。

自分自身としては、まだまだ自団体クロスフィールズの活動と日本のソーシャルセクターの発展とにコミットし続ける強い気持ちがある。そして、そういう風に日本のソーシャルセクターに留まって頑張る人材は、本当に沢山いる。大事なのは、今回キャリアチャンジをした人たちに刺激を受けつつ、そうした人材がそれぞれの持ち場で圧倒的な結果を出していくことだと思う。

僕個人としては、素晴らしい西海岸の環境でノウノウと勉強しているような人間には、成長スピードや社会に出している価値では決して負けてはならないと、心に決めた。35歳の1年間も、そんな気概で、一日一日を過ごしていこうと思う。

というわけで、松田悠介はせいぜい頑張ってきやがれ。
(そんな彼がStanfordでの日々を綴っているブログはこちらから)

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
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若い世代の国際協力離れと、この世界の片隅でいま起きていること

最近なんとなく感じていることを、ちょっとだけ書いてみたい。

仕事柄、僕は講演をさせて頂く機会がそれなりにあり、最近は大学生・高校生を対象としたものも多かった。で、その聴衆の数や反応などから、国際情勢や国際協力の分野に対する関心が急速に薄まっているなぁという、そんな危機感を感じている。(まぁ、僕の人気がなかったり、話がつまらないというだけかもしれないけど...)

ちょっと前までは、「こいつは面白いヤツだな」とか「将来デカいことやりそうだなぁ」と思うような学生が国際協力の分野にもすごく多かった。

でも、最近は感度の高そうな学生たちは社会貢献の分野を敬遠していて、テクノロジーやインターネットの分野で新しい産業を起こすことに関心を持っていることが多い気がする。また、社会貢献に関心がある層も、興味を持つキーワードは「地方」「ローカル」「復興」などが多く、国際的な領域に関心のある層は、質・量ともに下降傾向だと思う。

もちろん、テクノロジーや地方に目を向ける若い世代を否定するつもりはない。でも、結果的に国際的な活動に目を向ける若い世代が減ってしまうことには、なんとも言えない怖さを感じている。これからの未来をつくるのは当然ながら若い世代なわけで、そうした世代が世界にも視野を広げられていることは、健全な未来をつくる上で不可欠なことだと僕は思うからだ。

世界に目を向ければ、いまこの瞬間にも、いてもたってもいられなくなるようなことは沢山起きている。

たとえば僕が住んでいたシリアという国では、紛争状態が始まって6年目を迎えている。定期的に連絡を取っている友人によれば、あらゆる状況が悪化を続けている。生活はどんどん苦しくなっていて、日用品を手に入れるのも難しくなっている。石油などは闇市場で平時の10倍以上の値段がついていて、寒い冬を越すのは厳しい状況だ。最近は断水も多く、水は配給に頼るようになっているそうだ。また、男性たちは軍からの突然の徴兵が怖くてなかなか外を出歩けない。そんな最低な状況だ。

2016年、日本では映画『この世界の片隅に』が大ヒットした。広島県の呉市を舞台に、戦争で翻弄される人々の生活の有り様を丁寧に描いた、メッセージ性の強い素晴らしい映画だ。きっと多くの日本人が、映画に涙しながら「やはり戦争は恐ろしい」「日本人もああした暗い過去を持っていて、二度と繰り返してはならない」といった感想を持ったはずだ。

でも、僕があの映画を観て真っ先に想起したのは、シリアで暮らす友人たちのことだ。きっとシリアには、今日この1日を、あの映画に描かれているような壮絶な状況のなかで過ごしている普通の人たちが沢山いる。映画で描かれているのは「日本という国で昔に起きた話」や、「未来にまた起こってしまうかもしれない恐ろしい話」ではなく、「この世界の片隅で、いま現実に起きている話」だと思えてならなかった。

シリアの話は、1つの例でしかない。世界を見渡せば、グローバル化した社会のなかで、今日一日を様々な形で生活を送っている人たちがいる。そうした情景に対して想像力を持つことの人がどれだけいるかが、日本と世界とが、過去に起きた悲劇を繰り返さないためには決定的に大切だと僕は思う。それこそが、急速に内向き化を進める世界に対してあらがう唯一の手段ではないだろうか。

テクノロジーがこれだけ進化しても、残念ながら、世界はちっとも良くなっていない。
「この世界の片隅」にも興味を持ってくれる人が増えて欲しいと、切に思う。

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

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「LIFE SHIFT」を日本で起こすには?NPOからの地味な提言

LIFE SHIFT

いつも新しい視点をくれるリンダ・グラットン氏の最新作「LIFE SHIFT」を読んだ。名著「WORK SHIFT」はインドで読んで大いに刺激を受けたが(その時の記事はコチラ)、今作もたまたま出張中の海外(フィリピン)で読んだせいもあってか、なんだか色々なことを考えさせられた。

かなりいい加減だが、要旨としては、だいたいこんな感じ。

・これから寿命はどんどん長くなる。たとえばいま20歳の人が100歳まで生きる確率は50%を上回るようになっており、私たちはすでに人生100年の時代を生きている。

・人生100年時代では、「教育→仕事→引退」という3ステージを画一的に進んでいくという従来の生き方では対応できなくなる。人生はもっと多様になり、「人生を模索する期間」や、「色々な仕事を掛け持ちして働く期間」などが、年齢とは関係なく入り組む「マルチステージ」の人生へとシフトしていく。

・寿命が長くなると、貯蓄はこれまで以上に蓄えなければならない。また、これまでよりも長い期間働く必要があるため、変化に対応しながら長期にわたってスキルを磨き続ける必要が出てくる。

・これまでは、時間が余ったりしたときや、老後の時間などは「余暇(レクリエーション)」にあてるという人が多かった。だがこれからは、大学で講座を受けたりパートタイムで別の仕事をしたりして自分に投資する、「自己の再創造(リクリエーション)」のために時間を使う人が増えていく。



どんな世代の人にも、どんな仕事をしている人にも示唆的な内容だと思うので、興味を持ったという人は、ぜひ読んでみることをオススメしたい。以下、ざっくりと自分がこの本を読んで考えたことを書いてみる。


そもそも、この本に書いてある世界観にいち早くシフトしなければいけないのは、世界で最も早いスピードで高齢化が進む日本社会だと思う。そうならないと、日本は40年間もの「老後」を生きる人たちに溢れる社会になってしまって、それは社会全体としても、極限に長い「老後」を生きる人にとっても、不幸でしかない。

だが残念ながら、この本に書かれているような「ダイナミックにキャリアチェンジを繰り返しながら生きる」ようになるというLIFE SHIFTが日本で本格的に起きるには、大きな障壁がある。

日本では多くの人が終身雇用的な働き方に慣れきっていて、人生のステージを変えようにも、「いまの企業で働くこと」以外の選択肢を思い浮かべられないケースがほとんどだからだ。定年を迎えて突如会社の名刺がなくなってしまうと、有り余る時間を埋める手段はといえば、近所の公民館で時間を過ごしたり、あるいはゴルフや旅行に明け暮れるくらいになるという人はすごく多いのではないだろうか。

もちろん人それぞれの人生観であり、そのこと自体を否定したいわけではない。だが、社会全体がこうした状況を続けていたら、あまりにも社会としての生産性が低すぎると僕は思うのだ。

企業の側も、大量採用した世代の社員が全員定年まで勤め上げる(つまり、企業として給与を払い続ける)ことの恐ろしさには当然気付いている。仕事柄、僕は企業の人事部の人たちと話したりすことも多いが、「シニア層の従業員の多くには、早い段階で幸せなセカンドキャリアを歩んでもらうのがベスト」と企業側も考え始めているようだ。

だが、日本の真面目なビジネスパーソンたちは「自組織のために最後まで精一杯働くのが美学」という姿勢を頑なに貫いており、その良くも悪くも盲目的な視点がために、なかなかキャリアチェンジは起きにくいというのが現状だ。現時点では、有効な処方箋は見つかっていない。


ここで、NPOの世界に身を置く人間として、ひとつ非常にシンプルな提言がある。

地味ではあるが、ボランティアやプロボノというかたちで社会にかかわる機会をもっと増やしてはどうだろうか?大袈裟だが、これによって日本でもLIFE SHIFTが推進されていくと僕は思うのだ。

NPOの活動に携わることは、「自分の人生にとって何が大事なのか」を普段とは違う視点で考えるキッカケにもなる。また、自分が普段所属している組織の人たちとは全く違うコミュニティの人たちから刺激を受けることもでき、視野やネットワークが広がるからだ。何を隠そう、僕自身も青年海外協力隊というボランティア経験によって人生に対する視野やキャリアの選択肢が大きく開けたという原体験を持っている。

こちらは、総務省が5年おきに行っている社会生活基本調査(平成24年度版)からの抜粋で、男女・世代別でのボランティア活動の参加率をグラフ化したものだ。

ボランティア

勤労世代のボランティア参加率は概ね30%程度という水準だ。よくよく見てみると、30-45歳の女性でボランティアの参画率がグンと上がるのが見て取れる。おそらくは結婚・出産による退職や、子育ての大変な時期が終わるなどのライフステージの変化が影響しているのだろう。一方で男性は比較的どの世代でも低調で、30-45歳での上昇も女性に比べるとなだらかだ。ただ、定年退職を迎える65歳以降では女性を逆転していたりもしている。

個人的には、特に社会との断絶が激しい30~50代のビジネスパーソンには、もっともっとNPOの活動を通じて、会社以外の社会に直接的に触れて欲しい。そうすることで、定年後の自分のキャリアについて考え始める準備にもなるはずだし、もっと違う人生の時間の使い方に気付いて、人生を豊かにする選択をする人が増えるとも思うからだ。

折しも、時代は少しずつ変わり始めている。政府による「働き方改革」の推進や、一部企業による「副業解禁」「週休3日制」などといった流れは、多くの人に会社以外で時間を過ごす働き方を後押ししている。また、ブラック企業の長時間労働に対する批判の高まりは、「いまの会社にすべてを捧げるモデル」からの脱却に向けた追い風だ。

こうした動きでこれから確実に増えていくだろう働く人たちの「自由時間」を、ぜひともNPOの活動に積極的に向けて欲しいと切に思う。同僚と飲みに行ったり、いまの仕事に関する本を読んだりする時間だけにするのではなく、ぜひとも、新しい世界のドアを開けることにも使って欲しいと思う。

国としても、NPOが発行するボランティア証明書に記載された時間に応じて税金を控除する制度を導入するとか、あるいは、長期ボランティアに従事する人向けの助成金や社会保障制度の拡充とかをしてはどうだろうか。また、企業としても、兼業・週休3日制・長期ボランティア制度などを更に推進するとともに、NPOでのボランティア経験を何らかの形で人事考課に組み込んでもいいかもしれない。

いまこそ、長寿社会ニッポンから、世界に先駆けたLIFE SHIFTを起こし始める時だと思うのです。そして、そこに意外とボランティアやプロボノが効くと、僕は強く信じています。嘘だと思った人は、ぜひ自分の目で確かめて下さいませー!

<<ボランティア・プロボノがしたくなった人への参考情報>>
★ ボランティア情報は実はYahoo!ボランティアが一番充実してます!
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  (サービスグラントSVP東京二枚目の名刺a-conなどが有名な仲介団体です)

以上。
なんだか長くなりましたが、最後まで読んでくださった方には、心から感謝!

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
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NPOが陥るエリート主義という機能不全

英国でのBrexit、そして米国でのトランプ大統領の誕生など、今年はちょっと常識では考えられないようなことが世界各地で立て続けに起きている。

なぜこうしたことが起きているのかを、経営共創基盤の冨山和彦さんが、『「Gの時代」が終わり、「Lの時代」がやってきた』というNewsPicksの記事の中で、非常に明瞭に解説している。

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詳しくはぜひ元記事を見てもらいたいが(閲覧にはNewsPicksへの登録が必要)、「グローバルエコノミーの中で急上昇していく人たち(Gの住民)と、ローカル経済の中に閉じ込められている人たち(Lの住民)の間で大きな格差が広がっていて、Lの世界の人々が反乱を起こしている」というのが冨山さんの解説の趣旨だ。

そして、僕がこの記事を読んでいて強く感じたのは、「非営利セクターが抱える矛盾」についてだ。

Lの世界にいる社会的弱者の声をきちんと拾い、その課題を世の中に提示して社会を良くしていくという活動は、まさにNPOの使命の一丁目一番地だと言える。ある意味で、Gの世界を支える資本主義をベースにした企業活動に対して抵抗し、別の価値観を提示したり、あるいは、弱者も包摂する形での社会のあり方を模索するのが、NPOの存在意義であった。

つまり、行き過ぎたGの世界に対して、Lの世界の視点からNOを投げかけて世界にバランスをもたらすという機能が、NPOには本来的には求められている。しかし、世界的な視点で見ても、日本国内のNPOを見ても、どうもNPOはその観点では機能不全に陥りつつあるように僕には感じられるのだ。

3点ほど、主に日本国内でのNPOのセクターでの気になる動きを挙げたい。


①企業活動というGの世界への迎合

第一に、僕の経営するクロスフィールズなどを筆頭に、企業の活動に対してNOと言わず、むしろ企業とコラボレーションするという姿勢を持つNPOが台頭したことが挙げられる。

これによって企業とNPOとが一緒になって価値を生み出せるようになったという大きな進化があったという反面で、企業の活動に正面からNOと言う主体者が減ってしまったとも捉えられる。悪い面だけ見れば、Gの世界の活動である企業活動のなかに、NPOの活動が取り込まれてしまったとも言えるかもしれない。

②Lの世界の代弁者であるという立ち位置の喪失

次に、2005年頃からの社会起業家ブームに乗って、事業収入を主な収入源とする事業型NPOが増えてきた動きも見逃せない。

寄付金や会費での収入によって運営を行う寄付型NPOは、株主としての寄付者や会員がいるため、そうした支援者や受益者(この中にはLの世界の人たちも多く含まれる)の声を無視した行動を取りづらいという特性がある。一方で事業収入が予算の多くを占める事業型NPOには、寄付者や会員の基盤が弱い団体が多いため、Lの世界の代弁者としてのNPOという色は薄まってきていると言える。(そして、近年メディアなどでよく注目を集めているNPOには事業型の団体がとても多い。)

また、かなりマニアックな話ではあるが、寄付型NPOのなかにも、議決権を付与しないサポーター会員という形で会員を募集している団体が急速に増えている。この制度を活用すると、不特定多数からなる多数の会員の合意を取る手間が大幅に軽減される。これによってNPOの経営のスピードや柔軟性は高まるったが、その一方で、NPOのガバナンスに一般市民が参画するという体制は、日本でNPO法が施行された1998年当時と比べると大幅に弱まったように思う。

冒頭にも書いたように、NPOというのは、政府や企業に対して市民社会を代表して声を届けるという役割が期待される組織体だ。しかし、自戒の念も込めて厳しい見方をすれば、いまの状況では、一般大衆から票を集める必要のある政治家のほうがよっぽど熱心に市民の声に耳を傾けていると言えるかもしれない。

③高学歴エリートの職場であるという体質

最後に、NPOのセクターで働く人にも注目したい。実はNPOで働いている人には高学歴者が驚くほどに多い。僕は職業柄、多くのNPOの経営者やそこで働く人にもお会いするが、特にメディアなどでよく見かけるような注目度の高い団体であればあるほど、その傾向は強いように思う。国際協力系の団体などでは、ほとんどの職員が欧米大学院での修士号を取得しているといった具合だ。

もちろん、こうした優秀な人材がNPOの世界で活躍するようになっているのは、歓迎すべき素晴らしいことだ。だが、そのことは同時に、NPOで働く多くの人がGの世界の住人たちになっていることを意味している。当事者性を持ったLの世界の住人が自ら旗を振って活動しているようなNPOは、ここのところその数が減ってしまっているように感じる。


以上が、客観的なファクトには基づかない僕の印象論メインの考察だ。おそらく、僕とは違う意見を持つ人も多いかもしれない。

だが、僕の目には、NPOの活動はLの世界とは切り離され、Gの世界のなかで完結するものになってきてしまっているように映っている。そして、こうしたNPOの機能不全が、現在世界で起きている混乱の一因になってしまっていると、僕は自戒の念を込めて感じている。

今後も、格差に苦しむLの世界での反乱が更に激しさを増していく可能性は高い。そんななかで重要となるのは、NPOの活動がLの世界の人々の声を聞き、その声をGの世界へと届けていくことだ。そのことが両者の格差の拡大を止めることに繋がるはずだからだ。

その意味で、NPOの活動にかかわる全ての人たちは、社会課題を抱える当事者の視点や、Lの世界の人々が抱える不安や不満の声に対して、もっともっと自覚的にならなければならないと僕は心から思う。

ある意味ではGの世界に組み込まれているNPOの代表格であるクロスフィールズを経営する自分がこのようなことを言っても、「お前が何を言ってるんだ」と思う人も多いかもしれない。でも、そんな自分がこうしたことを発信することも大事だと思い、思い切り自戒の念を込めて書いてみた。

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
   『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)
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